すべての出逢いに感謝をこめて
2025年、私たち「竹凛共振プロジェクト」は10周年を迎えました。
この節目にあたり、これまで私たちの歩みに関わってくださったすべての方々に、心から感謝を申し上げます。
~命を奏でる竹凛共振プロジェクトの記録と物語~
【プロローグ:竹の囁きが、すべての始まりだった】
竹が揺れる音を聴いたことがありますか?
風にそよぎ、しなる竹の音は、まるで命の記憶を語りかけてくるようです。
それは、自然のささやきであり、再生のリズムであり、人と人を結ぶ“響き”。
その響きに導かれるようにして始まったのが、竹凛共振(ちくりんきょうしん)プロジェクトです。
【 竹凛共振プロジェクトとは?】
北九州市・合馬(おうま)の美しい竹林を拠点に、
放置竹林という地域課題に向き合いながら、
音楽・ものづくり・教育・福祉・環境保全を横断し、
「響き合う循環の社会」を育むプロジェクトです。
使い道がないとされてきた廃棄される竹を、
「伐り、活かし、響かせる」ことで新たな価値へと転換。
そこから生まれたのが、竹チェロをはじめとした竹楽器や、
竹灯り・bambooアート・ワークショップ・演奏活動の数々です。

【人生の音が変わるとき ── 田中昇三、再生の旋律】
■気づきの始まり
このプロジェクトのはじまりは、ある一人の男の「気づき」からでした。
その名は、田中昇三。
かつて彼は、都市空間を彩る空間デザイナーとして国内外で第一線を走っていました。
多忙な日々、次々と舞い込むプロジェクト、評価と利益。
けれど、50歳を迎えたある日、彼はふと足を止め、心に問いかけたのです。
「本当に響かせたいものは、何だろう?」
思い出されたのは、幼少期に過ごした隠岐の島の記憶。
風にそよぐ竹の音に耳を澄ませていたあの日、彼は確かに感じていました。
この音には、命の根源に触れる何かがある、と。
その感覚は、ただの郷愁ではありませんでした。
それは、生き方の方向を示す“根源の音”でした。
■崩壊と再生
そんな折、突如として人生を揺るがす出来事が起こります。
数千万円規模の取引先の不正、信頼していた人からの裏切り。
一瞬にして会社も人間関係も崩れ、心も身体も音を立てて折れたのです。
「ここで終わるわけにはいかない。人生を諦めてたまるか。」
混乱の中、彼は問い続けました。
なぜ、これほどまでに裏切りを経験するのか?
その答えは、誰かを責めることでは見つかりませんでした。
彼が見つけたのは、「信頼が足りなかった」のではなく、「信頼のかたちを知らなかった」ということ。
任せるとは、語り合い、確認し、責任をともに背負うこと。
それこそが「本物の信頼」であり、誰かのために静かに灯るこころの灯火なのだ。
そして、ある日、心の奥から問いかける声が響きました。
「お前は、本当に心が喜ぶことをしているのか?」
■与えることから始まる音
その問いに真正面から向き合ったとき、彼は悟りました。
人の心を満たすのは、「奪う」ことではなく、「与える」ことだと。
利益や評価を追い求める日々から、無条件に与える生き方へ――
それが、田中昇三にとっての“再生の始まり”でした。
風に揺れる竹の音に耳を澄ませながら、彼は自らを「器」として生き直す決意をしました。
与えることで満たされ、響き合うことで喜びが巡る。
それが“竹凛共振”という名の旅路の始まりでもあったのです。
■一本の竹から
音づくりは命づくり。
ものづくりは人づくり。
そのすべてを、彼は一本の竹からはじめました。
社会的成功を手放し、竹林に戻った田中昇三の人生は、
「響き合う」という真の豊かさに満ちた新たな音を奏で始めたのです。

【響き合いが生んだ「竹チェロ」】
田中が最初に形にしたのが、「竹チェロ」。
西洋楽器の構造に、アジアの精神性と竹の生命力を宿らせた唯一無二の音。
それは、演奏する人の心と共に鳴り、
聴く人の奥深くにやさしく響く“いのちの音”。
ただの楽器ではありません。
「祈りの器」「再生の象徴」「共振の源」として、
全国の子どもたち、障がいのある方、福祉・教育・地域の現場で鳴り響いています。
【竹の響きは想いを超えて】
目には見えないものが、たしかにこの世界を動かしている。
祈るように弓を走らせるとき、響きは生まれる。
竹の奥深くに宿った命の記憶が、そっと目を覚ます。
音は空気を震わせるだけでなく、聴く人の胸の奥をやわらかく揺らす。
ときに涙を誘い、ときに沈黙を生む。
竹林に眠っていた材が人の手を通して再び呼吸を始め、
「竹チェロ」という名の器となって私たちの“いのち”と共鳴する。
想いは行動となり、行動は音になり、音は目に見えぬ世界へと橋をかける。
それが竹凛共振という響きの旅。
意識と物質をつなぐ小さな奇跡の連なりなのです。
【共振の輪がつなぐ未来】
この10年の歩みは、一人では成し得なかった奇跡の連続でした。
楽団の仲間、職人、インストラクター、地域のファシリテーター。
年齢も立場も超えて、無数の個性が響き合いながら、
「音の場」「つながりの場」「創造の場」を生んできました。
・演奏活動は全国へ、福祉施設・保育園・学校へも広がり
・子どもたちの心を開く“響きの授業”が各地で展開
・全国各地にファシリテーターが育ち、自主的な活動が芽吹き始める
・放置竹林整備→素材活用→商品化→教育へ、という循環の実現
楽器は「音」だけでなく、「つながり」や「希望」をも運びはじめています。
【響きの教育:教えずして育つ場所】
竹チェロの教育に、教科書や正解はありません。
大切なのは「感じること」「響くこと」。
ファシリテーターは、“答えを与える人”ではなく、
“命と命が響き合う場を開く人”。
そこには、障がいも年齢も国境も関係ありません。
ただ一緒に、竹の音に耳を澄まし、「いま、ここ」に生きることを確かめ合うだけです。
【竹とともに生きる:地域と共振するものづくり】
竹を「伐る」ことで森を守り、その竹で「創る」ことで地域を活かす。
このプロジェクトは、環境・福祉・経済・文化をつなぐ新しいモデルとして、
地域の若者、職人、障がいのある方、子どもたち・・・
誰もが手を動かし、命あるものを生み出す循環社会を描いています。
【 響きとともに歩む未来へ】
この世界は、響きに満ちています。
風の声、竹のしなり、鳥のさえずり、人の鼓動。
それらはすべて、命の交響楽の一部です。
竹の音に耳を澄ませば、
人の中にも、社会の中にも、やがて響き合う希望が芽生えてくる。
それこそが、竹凛共振が目指す未来。
「つくる・響く・つながる」――その連環のなかで、命の尊さと美しさを奏で続けていきます。
【結びに:すべての命へ感謝をこめて】
10年前、竹林の中で生まれた小さな音が、今、全国へ、世界へと広がりつつあります。
それは、あなたという“共振する心”があったからこそ。
私たちはこれからも、竹の声に耳を澄ませ、命と響き合うプロジェクトを紡いでいきます。
すべての命と共振するその日まで。
2025年 竹凛共振プロジェクト一同
【竹凛共振プロジェクト 実績紹介】

~講演・講座活動~
「響き合う命」をテーマに、教育・地域・文化の各分野で講演・講座を多数開催。
【登壇先】
・西日本工業大学
・北九州市立大学
・福岡大学
・西南女学院大学
・Nouji学園
・神戸女学院中高部
・北九州市教育委員会
・ESD協議会 ほか
大学での特別講義や地域の生涯学習講座などを通して、竹の可能性や環境共生の重要性を発信しています。
【竹凛共振 竹の楽団 演奏活動】
竹の楽器による唯一無二のサウンドを奏でる「竹の楽団」は、
地域・環境・文化イベントで感動を届けてきました。
【主な出演実績】
・国際会議にて地域文化アトラクションの演出(北九州観光コンベンション協会連携)
・竹イノベーション研究会
・エコライフステージ
・小倉城竹あかり
・山田緑地
・熊本花博覧会
・別府竹細工伝統産業会館
・アドベンチャーワールド ほか
その他、まちづくり・行政主催・環境・教育関連のイベントへ数多く参加し、地域と自然をつなぐ音の力を届けてきました。
すべての出逢いに感謝をこめて
2025年、私たち「竹凛共振プロジェクト」は10周年を迎えました。